schizophrenie


chapterⅡ



夢の中で


夢の中で日記を書いた。
僕たちはある意味囚われの身で、
しかしいつだって簡単に自由になる事が出来た。
ヒロヨはゆう子ちゃんだった。
あの大きな駅、
多分昔の天王寺と阿倍野の駅で
うろうろ迷い楽しんでいたのだ。
海斗は広徳だった。
場所はミナミと囚われの地。

昔の駄菓子屋でおいしそうなチョコレートパンを買った。
セトヤでありシロヤだ。
牛乳を買った。ヒロヨはフルーツ牛乳を買った。
僕は500CCの牛乳に気付き横目で見ながら
300CCの牛乳を手に取っていた。
最初500CCの牛乳はおばさんが勧めてくれた。
200CCに隠れて見えなかったのだ。

パンの入った大き目の袋を抱えご機嫌だった。
このパンを外で食べるのだ。
ヒロヨにも食べさせたかった。一番おいしいパン。
いつの間にか袋の中には
普通の5倍位の大きさのカレーパンみたいなのが入っていた。
翔太がいつもの笑顔で「へーッ」と言っていた。
そうだそうだ。パン屋を出る時おじさんに「おじさんが死ぬまでに又来る。」と言った。
おじさんは年老いていて、もう2度と会えないのはわかっていた。

いつのまにかカレーパンは無くなっていた。
腹を空かせていた翔太と海斗が食べてしまったのだ。
カレーパンと一緒に海斗も居なくなってしまった。
僕たちがパンに夢中になっている間に迷子になってしまったのだ。
一瞬、泣きながら僕たちを探している海斗を思った。ヒロヨが探しに行った。

僕たちはどんな悪い事をしたのだろう。「取り締まる人」が現れてヒロヨにベストを着せた。
場所は1980年代、夜中のミナミだ。
そのベストを着ている人間はゲートから出る事が出来ないのだ。
僕は笑ってヒロヨに自分のジャケットを着せた。
ジャケットを脱ぐと自分がタンクトップ一枚であることに一瞬躊躇したが構わずゲートを出た。ジャケットでベストを隠したのだ。
そしてチョコレートパンと牛乳を買いに行ったのだ。そしてパンを抱えて又ゲートをくぐり元の場所に戻った。簡単だ。何の問題もない。
ゲートをくぐるとベンチに翔太と海斗が座っていた。

僕は日記を書いていた。ページを2~3ページ戻し、そこにこう書いた。
「それから何年かの間に幾度かお会いしに行き、お言葉を頂きました。」
そう、あの人が死んだのだ。
テーブルの向かい側には取り締まる人の管理者がいた。彼は黙っていた。あの人は取り締まる人の総指揮官だったのだ。
僕は、僕たちは簡単に自由になる事が出来た。いつだって。
日記を書きながら僕は泣いた。搾り出す様に、泣かなければ死んでしまうから、素直に泣いた。吐く時の様に苦しかった。

泣きたい時に泣けない人がいる。きっと人を酷い言葉で罵るのはそうしなければ死んでしまうからなのだろう。
泣けない心を裏返すのだ。僕だっていつの間にかそういう処がある。
目覚めて思った。僕には悟りが必要なのだ。悟ろうとする人は今の自分が悟っていない事を知っている。今の自分を否定しているとも言え るのだ。
「頑張って」という言葉があまり良くないものだと聞く。今その人が頑張っていないみたいからだと。
そうかも知れない。だけどそれで、その人が生きている悲しみまで拭い去ることは出来ない。

僕の生きるこの人生は避けられない悲しみだらけだ。僕は避けられない死や時間といった物を越えなければ生きていけない。だから僕には 悟りが必要なのだ。
あの人はこう言ったのだ。「お前はまだまだだ、もっと修行をしろ!」と。そう言ってくれる人が多分みんな死んでしまったのだ。これは とても悲しい事だ。
僕は取り締まられながらいつだって自由になれた。
いまだって僕は悟る事を必要としている。
僕がその為に今の自分を否定する時、あの人はいつも生きている。
それが僕の宝だ。僕は生きていてまだ生きようとしているから。
過ぎ去っていく時間に、ありがとう。さようなら。」と言うために。