schizophrenie


chapterⅥ



「いつまでも」



夕日が海に落ちて オレンジ色に染まる部屋
影は囁いてる 眩しすぎるよと
あの子の好きな絵とレコードと詩集と
夢は膨らんでく 憧れの街へ

これは俺がユニットを組んでいるパートナーのオリジナルソングだ。
彼女はアキラがとても大切にしてきた女性でもある。

夏が過ぎて行く時 あの部屋を思い出す
いつも聞いてた唄 暗いあの部屋で
ドア開けるとそこは 未知の国だったね
誰も邪魔されない 二人だけね

その歌の始まりはこんな風だった。

なんとでも表現出来るだろう。
期待と不安。
夢と孤独。
そうじゃない。「一人」だ。

この歌の風景の中にいるのは「少女から大人への、人生の過渡期にある一人の女の子」だけだ。
彼女はそれを「二人だけ」と表現した。
力というのはそういうモノだろう。

しかしまあ、女の話は置いておこう。
アキラと知り合って間もない頃アキラに
「アキラ、女は?」
と聞いた事がある。アキラは
「野暮だぜ。」
と言って笑った。俺はその後もそんなイカした台詞を聞いた事がない。

アキラはある日
「踊りに行こうぜ!」
と俺を誘った。踊りに誘われた事もそれ以後一度もない。あれから随分長い事ダンスミュージックをやっているにも関わらずだ。
踊りに行こうぜ!なんてイカした台詞なんだろう…。

言葉は人を装飾する事が出来る。
良い悪いじゃない。仕方のない事だ。
何も人の元気を奪う真実を語る必要などない。

それでも「自分で自分を誤魔化す行為」だけは避けたいと思う。
そんな事をしてしまえば「何の為に大切に生きてきたか」分からなくなってしまう。
俺達が大切にしてきたものが本当はほんの僅かなものだったとしても、それでも自分自身を誤魔化すことだけは絶対に避けたいと思う。

言葉を多く並べれば自責の念に疲弊し辟易する。
時には
「本当にそうだったのか?」
とクドいほどに自問し、
「お前は嘘つきだ!」
という言葉が情け容赦なく自分自身を責め続ける。

アキラは歌い俺は踊る。

「それは霧深い静かな夜で 朝が来るまで走っていたね…。」

嘘ならここにも存在する。
俺達が過ごしてきた夜はそんなロマンティックな代物じゃない。
しかし俺達はそれを「ロマンティック」に感じ生きてきたのだ。
誰かに文句を言われる筋合いのモノでもないだろう。
それも俺達の力だ。